〜 めばえ 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<11>
 ザックス・フェア
 

 

 

 

 

 ……翌朝。

 

 みごとに空が晴れ渡り、まだ五月の頭だというのに、真夏日のようだ。

 だが、掃討作戦を敢行するにはもってこいの気候と言える。

 もともとミディール沖など、亜熱帯に生息するシーウォームは、水温が上がると動きが活発になる。せっかく包囲網を張ったのだから、可能な限り駆逐し、海辺を正常な状態に戻したいのだ。

「シートの固定、終了しました!」

「予備ロープ確認済みです!」

「固定金具のチェック終わりました!」

 いやはや若いですな〜と、思わずつぶやいてしまいそうになり、俺は自らの年齢を思い出した。

 やはり修習生は元気で若い!! ピチピチだぜ……(そりゃそーだ)

 ……セフィロスだのジェネシスだのという連中と付き合うようになってから、なんだかドッと老け込んだ気がしてならない。クラウドとふたりで話している分にはそんなふうに感じないんだが、連中が側に寄ってくると途端に気疲れしてしまう。

「ザックスさん! 確認、お願いします!」

 伝令係に任命された修習生なのだろう。

 後方支援部隊の各部の配置図を寄越してきた。

「ああ、ご苦労さん。……今日は波が高いからな。皆に油断しないよう、伝えてくれ」

「はっ!」

 ビシッと敬礼をして、すぐさまとって返すのが気持ちよい。やっぱり若さっていいよな。

「ええと……」

 当てにならない英雄は放って置いて、俺は配置図を確認した。

 クラウドの所属する部隊についつい目をやってしまうのは、やはり同室のよしみというものだろう。

 彼は第五部隊……。ちょうど布陣の中央部、やや前よりの位置だった。1チーム10名ほどで、救護と援護を行なってもらうことになるのだ。

 ガーッ……ガガガッ……ピッ……

 おっとヘリから無線だ。

「はい、こちらザックス。湾岸部ポイントD」

「こちら巡回ヘリ第一部隊だ。よォ、ザックス」

「んだよ、カムランかよ。どうよ、そっち」

 馴染みのダチ、カムランだ。俺はホッと吐息した。やはり初めて戦う海の怪物相手に、いささか神経が高ぶっているのかも知れない。

「おう。いつでも始められるぜ」

「シーウォームの動きは?」

「気温が高いせいだろう。活発な動きだ。だが、返って駆除作戦にはいいだろうな」

「そうか。こっちもほぼ準備完了だ。セフィロスに確認を取ってから合図を送る」

「了解」

 マイクを切り、ひとしきり布陣を見回す。

 ……よし、後方支援部隊の準備も整っているようだ。皆、きちんと制服に身を包んで配属された部隊で控えている。

 戦闘部隊のソルジャーも、ラザードの計画表に従って戦陣を布いていた。油断大敵ではあるが、やはり俺たち実戦部隊はこういった状況に慣れている。

 ええと……後は肝心なヤツ……

 ……ってゆーか、セフィロス、いねぇよ……コレ……なんでだよ……

「チッ、ったく何してやがんだ!!」

 俺は苛立ちを押さえ、尻ポケットから携帯を取り出す。ワンボタンで掛けられるようにしておいたのが幸いした。

 

 ピピピピピ……ピピピピ……

 

 機械音の後に、受話器から聞き慣れた乱暴な声が飛び出してきた。

『オレだ!』

 エラソーに『オレだ!』じゃねーだろ?

 ……っていうか、何でアンタが苛立ってんの……? イライラしてんのは俺の方なんだけど。

 だいたいミッション当日に、中央司令部離れてどこにいるんだよ、この人は!!

「おい、セフィロス。アンタ、どこにいるんだ! さっさと中央に来てくれ!」

『貴様こそ何をしてるんだッ! クラウドがいないではないかッ!!』

 え……ちょっ……何言ってるんですか? この人は……

「知るかよ……ちょっと外してるだけだろ? ウンコじゃね?」

『クラウドがそんなもんするかッ! だいたい貴様は日頃からあの子に馴れ馴れしすぎ……』

「おいおい! アンタ、今はそれどころじゃないだろ? ヘリのヤツも旋回中だし、指揮を……」

『「それどころじゃない」!? どのツラ下げてそのセリフを言うッ! 集合を掛けるときにクラウドの身柄を確認しなかったのかッ!? あの子に万一のコトがあったら……』

「万が一って……まだミッションもスタートしてないんだぞ? 万一もクソも……」

『あの子は繊細な子だからな。湾岸部で気分が悪くなってしまったのかも……』

 どんなガキだよ。海見て具合悪くなるっつーのは。修習生とはいえ、クラウドだってソルジャー目指している兵士のひとりだぞ。そんなひ弱なはずがあるかよ。

『とにかく! クラウドの姿が見えないことにはどうしようもない』

「い、いや、あの……それは別にいいから。とにかく早くこっちに……」

『ふざけるなッ! オレはあの子を捜しに行く。シーウォームと戦いたければ、てめェら勝手に戦え!!』

 もう……ホント……すごいですよね、英雄って……

 統括を押しのけて、強引に志願して出てきたくせに……社長の護衛さえも無理やりアンジールと代わってもらったくせに……

 『勝手に戦え』ですって……

 なんだかもう……ミッションスタート前に花畑が見えちゃう心境だよ……俺……

 

『あ……ああッ!』

「なんだよ、今度はどうした!?」

『クラウドが帰ってきた!』

 俺はズコーッとコケそうになった。

『……え? ああ、緊張して手洗いに行きたくなったらしい。まったく……可愛い子だな……』

 電話の向こうで、クラウドの『セフィロスさん!?』という驚きの声と『ごめんなさい、ごめんなさい』という謝罪が聞こえる。

「あの、もういいから。わかったからさ。とにかく中央司令部に来てくれない?アンタがいないとスタートできないから、一応。」

『よし、わかった』

 ブツッと一方的に携帯が切られると、ドガッドガッと地を駆ける音がした。

 ああ、救護第五部隊は、わりと近くに布陣しているらしい。

「セフィロス……」

「いい頃合いだな。いつ始めてくれてもかまわんぞ」

 げっそりとした俺とは対照的に、ヤツはたいそうご機嫌でツヤツヤであった。たぶん、クラウドと会ってきたからだと思う。

「……やれやれ」

「おい、貴様は何を不景気なツラしてやがる。気合い入れてけ。クラウドが見ているのだぞ」

「……アンタね……もういいや。そんじゃあ、始めるか」

 俺は萎えそうになる気力を奮い立たせ、まずはヘリ部隊に予定の合図を送った。