〜 ムンプスウイルス 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<10>
 ザックス・フェア
 

 

 

 

 

 

「オレが神羅を辞める理由はただひとつ」

 前置きをしてから、少し間を置く。いかにも『よく聴きやがれ!』と言わんばかりに。

「この男に『クラウドと関わるな』と忠告を受けた」

 セフィロスは、向かい合う形で対峙している副社長を顎でしゃくって示した。……オメーはやくざか……

 だが、名指しされた本人は固いおもてをしたまま、口を噤んでいる。

「違うんだ、ザックス」

 すぐに口を挟んだのは、ツォンだ。

「ルーファウス様は、その……あからさまにそういったわけではなく……」

「黙れ! あからさまだろうが間接的にだろうが、言いたいことはそうだろう! だいたいオレのプライベートに口だしするとは何様だ!? 受けた仕事はこなしてみせるが、それ以外のことに口を挟むのはやめて欲しいものだッ!」

 感情のほとばしりと共にそう吐き出し、ハッとしたように、クラウドの寝顔を確認した。自分の言葉で起こしてしまわなかったかと気になったのだろう。

「セフィロス。今日の昼は取引先の関係者との会食を予定していた。確かに急に決まったことではあったが、今日の予定はフリーと統括のラザードに確認したんだ。それで昼前に執務室に足を運んだのだが……」

「…………」

「……ルーファウス様は、大切な相手の希望故、是非、トップソルジャーの君とジェネシスに同席して欲しいと、そう考えて……つい先ほどのような発言に」

「オレは客寄せパンダじゃないし、コンパニオンでもない。軍人だ」

 言い返したセフィロスに、即座に反論できる者はいなかった。トップソルジャーだからこその言葉の重み。クラス1stというのは、言い換えれば、最も危険に近いポジションという意味になる。

「確かにオレたちは神羅の社員だ。神羅から給料をもらって食っている。その代わり危険な任務に命を張るのはオレの仕事だ。……それだけの待遇を受けているからな」

「…………」

「だがな。前々から感じていたんだ。軍人としての職務以外に、貴様ら経営側の人間は、『ソルジャーを使いすぎ』なんじゃないのか?」

「……どういうことだろうか?」

 問い返したのはツォンだった。

「お偉方のパーティーに、国賓パレード、ちょっとした夜会でもなんでも、ソルジャー1stのオレたちを、身辺警護という名で側に置き、自分の所有物のように振る舞いやがる。……貴様のことだ、ルーファウス神羅」

「セフィロス! 相手は副社長だぞ、ちょっと言葉を……」

 嵐の前の予感があって、俺はセフィロスの物言いを諫めた。もちろんこんな言葉で引き下がる男ではないとわかっていたが。

 案の定、彼が「ケッ」というように鼻面で笑うと、なんの躊躇もなく言葉を続けた。

「まぁ、100万歩譲ってそこまではいいとしよう。だがな、仕事以外の関わりで、オレの行動を規制する事は許さん。いや、オレだけじゃない。オレの相手に対してもだ」

「お、おい、セフィロスってば」

「まぁまぁ、ザックス。いいから聞いていよう。言葉は悪いけど、別にセフィロスは間違ったことを言っているわけではないだろう」

 さりげなく俺を引き留めたジェネシスに、ツォンが苦々しげな視線を送った。ツォンは直情型のセフィロスよりも、得体の知れないジェネシスのほうが苦手なのだ。

「オレはこの子のことを気に入っているから構う。今回のような一件があれば、安心するよう側についていてやりたいし、容態も気になる。そいつの何がいけないんだ?」

「……いや、だから今日の昼は会食の……」

「それはどうしてもオレじゃなきゃいけない仕事なのか? もともとラザードが言ったように今日はフリーだ。休暇というわけではないが、1stのフリーの使い方は個人の裁量に任されているはずだ」

 ツォンもさすがに言葉に詰まる。フリーの日の使い方云々について議論はあろうが、セフィロスが口にしているのは事実なのだ。

「だが……同じ1stのアンジールなどは、極力配慮して、カンパニーのために……」

 尚も口を開かないルーファウスの代わりにツォンが言葉を続ける。だが、それもセフィロスに遮断された。

「そいつはアンジールの価値観だ。オレはそうではない。ビジネスとして請け負う事柄以外は、社とはあくまでも別個の人間として考えてもらいたい」

「ああ、まぁ、その辺は俺も同感かな。悪いけどソルジャーの仕事だけで手一杯だよねェ。それ以上のことを求められるとさすがに煩わしいよなァ」

「おい、ちょっ……ジェネシス!」

 緊張感の無い声音でセフィロスに同意され、ぶっちゃけ俺だって心の中ではもっともだとは感じていたけど口には出さずにいた。っつーか、目の前に副社長とそのとりまきがいるところで、言うこっちゃないだろうと思うんだが。

 

「……セフィロス、君がもともと自由志向の強い人だというのは知っている。それがまた君の強さであり、魅力のひとつなのだろうと思う」

 おもむろに口を開いたのは、ずっと石のように黙りこくっていたルーファウス副社長であった。皆一様に彼の冷たく凍り付いた顔を見た。もちろん名指しのセフィロスも例外ではない。

「だが……なぜ、この修習生が、なのであろうか?」

「あ? なんだそりゃ。別に今の話にクラウドは関係ないだろ? オレは仕事とそれ以外のことを分けて考えろと言っているだけだ」

「確かに君は仕事とプライベートを分ける人だ。だが、だからといって、プライベートでは、まったく社の人間と交わらないというほど頑なではなかったはずだ。特に所用無ければ私や他の役員とも交流があっただろう。最近は食事の席を共にすることもなくなったし、外出の護衛もほとんど断ってくる」

 そうですよね、だって役員とメシ食ってたら、クラウドと社食で食べられませんから。ルーファウスたちと外出したら、クラウドのお風呂タイムの覗きも無理ですもんね。

「…………」

「君が変わったのは、この四月。そこの少年が神羅に入社してからだ」

 ルーファウスが氷のようなブルーの瞳で、ベッドの上のハムスターを睥睨した。

「あー、まぁ、そりゃそうかもな。クラウドは特別だからなァ」

 ガチガチに固いルーファウスの物言いを小馬鹿にするように、セフィロスは言葉を重ねた。

「……だからそこで最初の質問に戻る。なぜ、この修習生が君にとって特別になるのだろうか? 君がそこまでこの無力な少年にかまう理由は何なんだ? 私との会食や晩餐会、交遊会を蹴ってまで、なぜその病人に君のような人が着いていなければならないんだ!」

 冷静だった副社長の声音が怒りに震え、仕舞いには高いトーンなった。

 幼い頃からプレジデント神羅の一人息子として、特別待遇を受けてきた人だ。誰からも一目置かれ、特別視されるのがあたりまえだったはず。それにもかかわらず、ソルジャー1stのセフィロスが、『副社長』の自分よりも、今年入社の田舎の少年を気にするというのは、彼にとっては屈辱以外の何者でもないのだろう。ましてや個人的にもセフィロスを好いているというのでは尚のことだ。

 軽く肩で息をしているのは激昂したまましゃべったからだろう。ルーファウス副社長の青ざめた頬がうっすらと上気してきた。そうすると年相応の青年に見える。

 ……いやいやいや!副社長の観察をしている場合じゃねー!