〜 ムンプスウイルス 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<12>
 ザックス・フェア
 

 

 

 

 

 

 

「……ソルジャー・クラス1st、セフィロス」

 深く吐息すると、ルーファウスは低くつぶやいた。

「君の気持ちは理解した。譲歩できる部分は考慮するつもりだ。それゆえ、さきほどの辞意は撤回してくれ」

 『辞表を書きゃいーんだろ!』とか騒いでいたことを言っているのだろう。ってゆーか、神羅を辞めるなんて……だいたいこの人から『トップソルジャー』を引いたら何が残るんだろ。

 『セフィロス−神羅の英雄=わがままなチンピラ』

 じゃねーの、コレ? ただの邪魔なオッサンになるだけじゃね? クラウドに告白する前に、自ら撃沈するようなもんだと思うんだけど……

「オレ様のプライベートを尊重すると約束するならばいいだろう」

 あくまでも偉そうなセフィロス。いや、アンタ一歩間違えたら『邪魔なオッサン』だから。

「……わかった。ツォンもそれでいいな」

「私は坊ちゃ……ルーファウス様がそれでよろしいなら」

 固い声でツォンが同意を示した。

「……セフィロスは我が社の大切なソルジャーだ。私の一存で辞意を認めることなど許されまい」

「認められよーが、認められまいが、決めるはオレだ。オレが続けたければここで世話になる。鬱陶しくなったらいつでも出て行ってくれる」

「…………」

 セフィロスを睨み付けるツォン。目に見えない火花が散った。だがそれも一瞬で、次の瞬間、ツォンは怒りを収め、いつもの冷静なおもてに戻っていた。

 

 

 

 

 

 

「……ルーファウス様、三時より面会の予定が入っております。まだ時間はございますが、そろそろ準備をされたほうがよろしいかと」

「…………」

「ルーファウス様?」

「……ツォン。先に行って書類の準備をしておいてくれ。すぐに戻るから」

「ですが……」

「頼む。すぐに私も行くから」

「……はい」

 それ以上、問い詰めることなくツォンは皆に向かって一礼すると足早に部屋を出た。

 ツォンを追っ払って何を言う気なのだろうかと思ったが、ルーファウスはそれ以上言葉を続けることはなかった。

 ふぅと小さくため息を吐くと、苦痛に歪んだおもてを引き締め、きりりと前を向く。傷ついて青ざめた顔色は変わらなかったが、よくよく見ればこいつも十分美形で通る男なのだと感じた。……クラウドと似ているかもしれない。金髪碧眼という外見がそう感じさせるのかも知れないが。

「ソルジャーは我が神羅カンパニーの誇りだ。その諸君に対し、我ら経営陣は甘えていた部分もあるのだろう」

「今さら気付いても遅せーんだよ」

 などとつぶやくセフィロスを、俺は慌てて制した。

「だが、忘れないで欲しい。我々は君らソルジャーを尊重するし、また諸君の力を必要としている。互いによい関係を築きたいのだ」

「はい、わかります」

 俺はふたりに代わって返事をした。ジェネシスは黙ったまま聞いているだけだし、セフィロスに至っては、「関係はてめーら次第だな」だの何だのとつぶやいているのだ。

「ありがとう。君たちも社内における立場と影響力をよくよく考慮し、行動してくれるよう期待する。……可能ならば、トップソルジャー諸氏には社の経営方針などについても知っていて欲しいし、我々と懇意にしてもらいたいと思っている」

「ああ、そうだね。俺たちの力が必要ならば、いつでも」

 とジェネシス。一応、フォローのつもりなのだろう。何しろ、セフィロスが返事も何もしないのだから。

「……私が言いたかったのはそれだけだ。では、失敬する」

 そういうと、副社長は踵を返した。あれだけご執心だった、セフィロスを一度も見ずに。いや、見ることが出来ずに、だ。

 硬質な扉が音もなく閉まり、遠ざかってゆく足音……

「あの、ちょっと、俺……!」

 副社長の後を追おうとした俺の肩を、ジェネシスが引き留めた。

「こういう役目は年よりのほうが上手いからね」

 茶目っ気たっぷりな物言いをすると、「後は任せろ」と小さく耳打ちし、足早にルーファウスの後を追っていった。

 部屋に取り残される形になった俺とセフィロス。

 自分勝手なクソ英雄は、今の一幕のことなどどこ吹く風で、クラウドの傍らに椅子を持ち込み彼の額のタオルを代えてやっていた。

「……おい、セフィロス」

「なんだ。ああ、氷が溶けてしまった! 看護士はまだか!」

「おめーは自分のことばっかりだなァ、おい!」

「自分のことより、クラウドのことだ! ザックス、ボウルの氷を替えてこい!」

「チッ……わかったよ」

 とりあえず、言われたままに、ステーションに立ち寄り代えの氷をもらってくる。スタッフにすぐに行きますからと告げられたが、そいつは断っておいた。クラウドの容態は落ち着いているし、今はアホ英雄がいるのだから。

「おい、セフィロス、氷!」

 そう言ってボウルを突き出しかけたが、ヤツの横顔を見てトーンを落とした。

 見たことのない『セフィロス』がそこにいた。クソでかい身体を縮こませ、少年の額に素手を当てるセフィロス。

 一刻も早くクラウドの病を治してやりたいと思いつつも、何の力もないおのれに歯がみしているのだ。

 俺は……自信たっぷりできりりと眉を上げているツラしか見たことがなかったから……こんなふうに、気弱に眉を顰め、もどかしげに爪を噛む素振りなど、一度も目の当たりにしたことがなかったから……

 

 ……ああ、こいつは本当に、クラウドのことが好きなんだなぁ……