〜 ムンプスウイルス 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<13>
 ザックス・フェア
 

 

 

 

 

「セフィロス、ほら、氷もらってきたから、替えてやってくれ」

「え、あ、ああ、おまえ、帰っていたのか。よこせ」

 いつもの表情に戻って偉そうにボウルをかっさらう英雄。ったくコイツも素直じゃねーし。

「……クラウドはまだガキだし、そんなにひどくはならねーよ。医者も言ってたしな」

 慰めるわけではなかったが、そんな言葉が口をついた。

「んじゃ、俺は執務室行くから。何かあったら知らせてくれや。……それと……」

「なんだ、まだ何かあるのか!?」

 こちらを見もせずに、イライラというセフィロス。

「別に。……ただ、アレ……まぁ、副社長もそいつよりちょい上くらいのガキなんだからさ。アンタのこと好いているみたいだし、ちっとはやさしくしてやれよ」

「なんだと、この……」

「あー、ハイハイ、よけいなお世話でしたね〜。じゃ、行くから」

 俺はいうだけ言い置くと、さっさと部屋を出た。

 ……今日がフリーならきっとセフィロスはあのままクラウドにつきっきりだろう。だったら俺でできることがあるなら、セフィロスの代わりにアンジールを手伝おう、そんなつもりで。

 

 

 

 

 

 

「あ、あれ?」

 俺はズカズカ進んでいた足取りを押さえた。

 メディカルルームから本社への道。大きな木が植えられ、公園のようになっているフリースぺースに、遠目だがルーファウス副社長とジェネシスを見つけた。

 ここからでは遠すぎて何を話しているどころか、まともに顔を見ることさえ出来ない。

 だが、たぶん、ルーファウスは俯いて泣いて……?はいないと思うが、肩を落としているように見えた。こうして遠目で見るとルーファウスも線の細いタイプなのだなと感じる。いつも年に似合わぬ尊大な態度を取るのであまりそう感じたことはなかったのだが……

 そして、彼の肩にジェネシスがそっと手を添えている。人あしらいの上手いジェネシスのことだ。きっと巧みに慰めてやっているのだろう。

 だが、そんなふたりは何となくいい雰囲気であった。変な意味ではなくて。

 ジェネシスのほうが、精神的にも肉体的にもずっと大人で……気を張って生きている年少の青年を見守るような暖かな雰囲気で……

 ……ってたぶん、ジェネシス本人はそんなつもりなどまったくないのだろうけど。ただなんとなくああやって、宥めてやった方がいいと判断したから言葉を掛けているのだと思う。

 ジェネシスってヤツは、やさしいのか冷たいのかわからない。いや、『冷たく』というのは言い過ぎかも知れないけど、『興味のないもの』にも表面上はやさしく出来るヤツなのだ。彼はいつでも本心を見せないから。

 例えば、ジェネシスならば、殺したいほど憎んでいるヤツ相手に、暖かく微笑みかけることなど、朝飯前にやってのけそうだ。

 あいつが本気を見せたのはあのときだけだ……

 そう、ニブルヘイムの神羅屋敷……その地下室で眠り続ける女神に『誓い』を立てたとき。

 彼が目覚めたならば、どこに居ても必ず迎えに行くと……そう繰り返していたジェネシス。あのヘラヘラとした三文詩人のような輩が、あれほど真摯におのれの気持ちを訴えかけていたのを初めて見たのだ。

 棺桶で眠っていた彼は、もちろんジェネシスの言葉など聞いていたはずはないだろうけど、もし彼の誓いを耳にしたとしたら……そりゃ、同じ男として困惑するに違いなかろうが、決して……そう、決して不愉快に思ったり、唾棄するような気分になるはずはないと……そう思うのだ。

 そんなことを考えつつ、無意識のうちにふたりの姿を見つめてしまっていたせいか、こちらに横顔を見せていたジェネシスが俺に気付いた。副社長はあちら側を向いていたのでわからなかったのだと思う。

 ジェネシスは綺麗な形の唇を軽い笑みの形に持ち上げると、そっと片手の人差し指を口元に当てて見せた。

『しー……ッ』

 ってところか。

 そうだな。ルーファウスに気付かれる前に立ち去った方がいいだろう。ジェネシスが彼についていてくれるなら、俺にすべきことはなにもなさそうだった。

 あー、それに洗濯の続き……アンジールのところにも顔を出さなきゃな。

 ……俺ってけっこう気遣いのできる男かもなァ……なんて。

 

 その人の夜……寮の自室でひとり切りでベッドに潜り込んだとき……一抹の寂しさを感じた自分に苦笑した。

 クラウドは……まだあいつ自身はただの修習生だし、何の力も無いヤツだけど、不思議と人の心を引きつける人間なんだと気付いたのだ。

 主の居ないベッドは、当然からっぽで……そいつを見ていると、なんだかひどく寂寥感を覚える。少年特有の少し高い声で、「ねぇねぇ、ザックス!」と呼びかけてくるクラウド。

「……ったく、何感傷的になってんだよ……」

 思わずひとりごちると、頭から布団を被って眠った……