〜 ムンプスウイルス 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<14>
 ザックス・フェア
 

 

 

 

 

三日後。

「ほら、クラウド、あ〜ん」

「はい、あーん」

「美味いか?」

「むぐむぐ、おいちいです」

「よしよし。リンゴはビタミンCが豊富だからな。病み上がりにはとてもいいんだ。あ〜ん」

「あ〜……あッ ザックスぅ!! おはよ、来てくれたんだ!!」

 ゲッソリと病室の扉に寄りかかっていた俺を、脳天気なクラウドの声が出迎えた。セフィロスは、片手にリンゴを刺したフォークを持ちつつ、まさに仇敵を威嚇するという勢いで睨み付けてくる。

「お、おう。大分良くなったみたいだな。腫れも引いたし」

 セフィロスのねつい視線を避け、クラウドに話しかける。

 ……しかし……

 なんつーか、この風景は……

 セフィロスは、クラウドがメディカルセンターに入院した日から、それこそ泊まりがけの勢いで側にくっついている。最初はオドオドして相手をするのに恐縮していたクラウドであったが、もともと順応性の高い子供だ。

 あっという間にセフィロスに打ち解け、尊敬する先輩と同時に、親しみを持つようになったようだ。

 クラウドは『身内』と『身外』をはっきり分ける習性がある。ってことはセフィロスはすでにクラウドにとって『身内』になってしまったのだろうか……

 セフィロスの雰囲気からして、未だ決定的な告白をしたようには見えないのだが……

「ザックス、ありがと、様子見に来てくれたんでしょ? あ、それとも、セフィロスさんに用事が……」

「違う違う。どうせヒマなだけだろ、コイツは。言っておくが、オレは今日はフリーだ。そう決めた。アンジールたちにもそう言っておけ、ザックス」

 最後の言葉だけは俺に向かって言い放つ英雄。

「セフィロス……アンタな……」

 ぐったりと俺はつぶやいた。そりゃまぁ確かに、急ぎの任務は入っていないのかもしれないが、かれこれ三日ほどもまともに執務室に顔を出していないのだ。ジェネシスなどは何も気にしていないようだが、俺はものすごく気になる。

 副社長じゃないが、そりゃ確かにクラス1stのソルジャーともなりゃ、危険な任務が多く、一旦ミッションに突入すりゃまともに休む暇無しだってのはわかっている。

 だが……だからといって、日常的には、ふらふらと好き勝手をしていいというわけではない。他者の規範となるのも、上位ソルジャーの役目だろ。

 ……って言って、聞くセフィロスじゃないからなァ。

 それより何よりアンジールが気の毒じゃねーか。あの人は時代錯誤の滅私奉公タイプなのだ。そりゃ、セフィロスのように「個人の価値観だ!」と言ってしまえばそのとおりなのかも知れないけど……でも、あの不器用な人を見ていると、ついつい好き勝手なセフィロスや無気力なジェネシスに一言いってやりたくなるというものだ。

「セフィロスさん、忙しいんでしょう? おれ、もう大丈夫です。心配してくれてありがとうございました」

 クラウドはセフィロスに口を拭かれるままにそう言った。

 ……ってゆーか、ナプキンがあるだろ。自分で拭かせろよ、それくらい。重病人ってわけじゃないんだから……

「クラウドはこのクソハリネズミと違って、気配りの出来るいい子だな」

 セフィロスは、健気なセリフを口にするクラウドの髪を、愛おしげにぐりぐりと撫でくりまわした。

「だが、無事退院できたら、元の部屋でいいのか?繊細なおまえにはつらいんじゃないのか?こんなケダモノと同室では……私は心配で夜も眠れん」

 どっちがケダモノじゃ、コルアァァァ! つい最近までは歓楽街を徘徊していた節操無しのエロ男が!! おのれの素行を棚に上げて言いたい放題だな、このヤロー!

 だが、俺が口を開く前に、クラウド当人がすぐに反論してくれた。

「ザックスはやさしいです。おれ、ザックスと一緒でよかったって思ってます」

「クラウド……」

「ザックスは勉強も教えてくれるし、お風呂とかご飯とか一緒してくれるし…… どっちかっていうと、おれのほうが迷惑掛けてるようなカンジだと……思います」

 ちらりと上目がちに俺の表情を盗み見る、クラウド。

 いやいや、そんなことはねーぞ、クラウド!おまえのちっちゃなわがままなんて、全然迷惑なんてもんじゃない。本当の『迷惑』というモノは、おまえの目の前に居る英雄の存在そのものだから、コレ。

「……一緒に……風呂……?」

 俺の内心を読みとることもなく、クソ英雄はただ一言、その言葉にのみ引っかかっているようであった。大人になってくれよ、セフィロス……

 ……ってゆーか、別に普通だろうが、一緒に風呂入るのなんざ。だいたい部屋に備え付けのユニットバスならともかく、大浴場なら寮生みんなゴッタ混ぜになって入るんだ。別にふたりきりで入っているわけでもねーし……

「クラウド、ザックスと一緒に風呂など入ってはいかんぞ。性病が感染る……」

「よさねーか!」

 背後から英雄を突き飛ばす。セフィロスはよろけもせずに、二、三歩引いただけだ。クラウドは意味がわからずきょとんとしている。

「そんじゃな、クラウド! また午後に来るから」

「う、うん……」

「クソッ! 放せ、オレは行きたくな……」

「わがままを言うなっつーの!」

 扉を叩きつけるように開けたとき、目の前の黒スーツにぶつかりそうになった。ちょうどその男も、クラウドの部屋に入ろうとしていたところらしかった。

 

 

 

 

 

 

「ツォン!」

「ザ、ザックス……セフィロス…… ここに居たのか」

「なんだ、てめェ、この子に何の用だ」

 ずんとツォンの前に立ちはだかり、あからさまに威嚇するセフィロス。

「い、いや、私は……」

「病身のこの子につまんねーコト、言ってみろ、この野郎。一生後悔させてや……」

「セフィロス!」

 やくざ顔負けの脅し文句を口にする英雄を慌てて止める。入り口とクラウドのベッドは少し離れているから話の内容は聞き取れないかもしれないが、剣呑な空気は伝わるだろう。

 いくら、クラウドの前でやさしいお兄さんぶりっこしていても、すぐに本性がバレるぞ、セフィロス!

「あ、ツォンだ。ほぅら、やっぱりふたりともここだっただろう? 俺のいうことはよく当たるんだぞ」

 のんびりとした声が背後から飛んでくる。

 ……千客万来。ジェネシスのヤツだ。

「こんにちわ、チョコボ。ご機嫌いかが?」

 出入り口でタイマン張った形になっている(いや、あくまでもセフィロスがだが)ツォンと英雄を無視して、ジェネシスの野郎はずかずかと室内に入ってきた。

「あ、ジェネシスさん!」

「うん、もうほとんどいいようだね。早く治ってよかった」

「あ、ありがとうございます!」

「どういたしまして。はい、これお見舞いの品ね、チョコボサブレ」

 バカの一つ覚えなのか、ジェネシスはまたもやキ○スクに売っているチョコボのクッキー菓子を持ってきた。

「うわぁ、これ、好きなんです!ありがとうございますぅ」

 甘い物好きなクラウドにとっては嬉しい手みやげなのだろう。彼は素直に喜んでそいつを受け取った。セフィロスの人を殺せそうな眼差しが怖い……ジェネシス本人は気付いてさえいないが。

「ザックス、セフィロス、ツォンが用事があるんだって。ここで騒ぐとチョコボに迷惑だから失礼しよう」

「あ、ああ、じゃあな、クラウド。まだちゃんとあったかくして寝てろよ」

「うん。またね、ザックス」

 クラウドは何の違和感も感じなかったのだろう。チョコボサブレにご満悦でニコニコ笑いながら俺たちを送り出した。

 ひとり釈然としないツラをしているのは、もちろんセフィロスであった。