〜 障害物競走 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<4>
 ザックス・フェア
 

 

 

 

 

 

「うん。夜が開ける前にね、出発したらしいよ。ラザードがブツブツ言ってた」

 天気の話のように教えてくれたのはジェネシスだった。

「それはこちらだとて、一言いいたくもなるさ。別に休暇を認めないというわけではない。だが、夜中にいきなり届けを突きつけられても……」

「まぁまぁ、ラザード。湾岸封鎖の件も、無事終結したのは彼の力が大きかったようだし、ここのところ多忙だったからな……」

「アンジールは人がいいなァ。ほとんど休暇取ってないのはおまえのほうだろう。あっはっはっ」

 ジェネシスが小説片手にアンジールを笑う。

 だが、今の俺には彼をフォローする心の余裕もなかったのだ……

 

「いや、あの……スンマッセン…… 話戻しますけど……それじゃ、セフィロスは昨夜いきなり休暇を申請して旅行に出たと……」

「『申請』じゃなくて、放置して、だよ、ザックス。今朝目覚めたら、ドアのすきまに挟んであったんだから」

 ラザードかいかにも呆れた風に言い返してきたが、その辺は耳に入ってこない。大事なのはそこじゃないから。

 嫌な予感がジリジリと胃のあたりを圧迫してゆく。

 まさか……まさかとは思うが……

「しかし、そんな話は全然していなかったがな。まぁ、もともと気まぐれなヤツだが」

「あの……みなさま。行き先を聞いてはおりませんでしょうか……?」

「どうした、ザックス? 顔、土気色だよ? おまけに敬語になってるし」

 とジェネシス。いやいや、今は俺の心配よりセフィロスの行き先だ。

「ああ、なんとかという田舎だって。ええと、ほら魔晄炉があるところ…… どこって言ってたっけ、ラザード?」

「ニブルヘイムだ。山頂部に古い魔晄炉があるな」

 ラザードの口からその単語が飛び出た瞬間、俺の脳裏に稲妻が走った。

 

 

 

 

 

 

 運命の第一楽章が、頭の中で鳴り響く。

 ジャジャジャジャ〜ン!!

 

 オーマイガ〜〜〜〜ッッ!!

 

 マジすか? ホントにホントのマジっすか!?

 あの人、本気でニブルヘイムに行っちゃったンすか?

 ウソでしょ? だれかウソだって言ってくれェェェェェ!!!

 ってゆーか、何しに行ったんだよォォォォォ〜〜〜〜ッ!?

          

「ザックス?」

「どうした、ザックス?」

 

 どどどどどどど、どうしよう!?

 まさか、ティファちゃんに……!?

 いやいやいや、さすがにあの男だって、見ず知らずの女の子相手に大人げない真似……

 いや、だが、あの人は大人げないことに掛けては右に出る者がいないほどの……わがまま者で……

 それに唐突にニブルヘイムに行くなんて、他に理由が考えつかない。

「うーん、なんか、事件の予感〜?」

 セフィロスと同レベルに整った、ジェネシスが俺のツラを覗き込んでくる。

 ウゼーんだよ、変態詩人が!!

 いくら、おめーのツラがキレイに整っていても、今は突っ込む余裕なんか無いんだっつーの。

 

『14才、少女の変死体!?』

『惨殺現場は語る!! ……残された長い銀の髪……』

『怨恨か!? 傷口は数十カ所に及び、特に胸部への刺し傷が……』

 恐ろしいフレーズが脳裏を駆けめぐる。

 

 どうしよう、どうしよう!!

 いや、迷っている場合じゃない。

 人ひとりの命が……しかも、大事なクラウドの幼なじみの生命が掛かっているのだ。

 俺のうかつな発言のせいで……!!

「あ、あの……」

 震える声を叱咤して、俺は統括に声を掛けた。

「あ、あの……すいません……」

「どうした、ザックス?」

「あの……ホント……マジ、スイマッセン……ラザード統括」

 俺は譫言のようにつぶやきつつ、ふらりとデスクの前に歩み出た。

 ジェネシス以外の連中が不気味そうに一歩引く。

「お、おい? ど、どうした、ザックス……気分でも……?」

「ホント……ホント、心の底から申し訳ないんスけど、俺も休暇もらっていいスか……?」