〜 障害物競走 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<11>
 ザックス・フェア
 

 

 

 

「とにかくだ!」

 バンとテーブルを叩き、セフィロスはクラウド論をまとめた。

「クラウドはそのままでいい。穢れ無き天使の姿でオレたちの目の前に現れたのだからな」

 それこそ、小説に出てきそうなこっ恥ずかしい単語で。

「いや、あの……天使って……アンタ……」

「あっはっはっ、天使かァ。チョコボの天使だねェ。羽は生えていないみたいだけど、尻尾はある」

「バカヤロウ!! 貴様らにはあの子の背に淡い羽が輝いているのがわからんのか!?」

 ……いや、輝いてないから。

 ……どんな変態の妄想なんだよ……

「ああ、クラウドと出逢うまで清い身体で居て正解だった……」

「あの、スイマッセン。どなたが清い身体なんでしょうか?」

 ここはすかさず突っ込むべきところだろう。

 清いもクソもこの人ほど色恋沙汰で浮き名を流しているヤツはいないと思う。だが、セフィロスはすました顔で言い放ったのだった。

「オレに決まってんだろ。ケッコンなどしていたら、取り返しのつかないことになっていた。もっともクラウド以外に、オレにふさわしい人間はそうそういなかろうが」

 いやいやいや……結婚とか……関係ねぇだろ。

 っつーか、アンタは世俗の垢にまみれまくりだよね? いったい何人、同時進行で愛人変えたことか……しかも全員玄人……

 まぁ、別の意味合いで、アンタと所帯持つ勇気のある奴はそうそう居ないよな。

  

「オレのクラウドはエンジェルだ……だが、同年代とはいえ、ティファは違う!!」

 ダンッ!とふたたび拳の音が鳴り響く。重厚な木造のダイニングテーブルが割れて吹っ飛ぶかと思うほどだ。

「あの娘は、天使のクラウドとは異なるのだッ!」

「違うって……アンタ、まさかもうティファちゃんに逢ったのかよッ!?」

「……いや、まだだ」

 ガクンとずっこけそうになった。

 見たこともない女の子を、よくもまぁ、そこまで妄想だけで人物評出来るものだと。

「だが……クラウドを愛するオレの勘がそう告げている……」

「あのな……アンタな……せめてもうちょい論理的な……」

「あっはっはっ、ザックスに『論理的に』とか言われちゃおしまいだぞ、セフィロス」

 よけいな口を挟むジェネシスを、ムッとにらみつけて俺は言葉を続けた。

「とにかくだ! 俺たちが来たからには勝手なコトはさせないからな!! アンタは数日間の休暇を楽しんだら、一緒に本社へ戻るんだぞ!!」

「ああ、じゃあ、帰りはセフィロスと一緒かァ。せっかくだから、三人でどっか寄っていこうか」

「ちょっ……そういうことを言ってんじゃねぇだろ、ジェネシス。……いいな?わかってんだろうなッ? セフィロス!!」

 最後の言葉は強い口調で銀髪の男に叩き付けた。

 だが、それに怯むようなセフィロスではない。ぐいと胸を反らせ、顎を持ち上げる。2メートル近い長身から睥睨するような形で、オレを見遣った。

 クッと口角を持ち上げ、薄い口唇を歪める。

「……フフン……貴様にオレが止められるか……?」

 クソッ!! ムカツク奴!!

 確かにセフィロス相手じゃ分が悪い。だが、俺には(一応)味方がいる。無理やり同行してきたジェネシスは、トラブルが発生したらこちら側に着いてくれるはずだ。 

「……うーん、やっぱりね、魔晄炉があるところだし、もめ事はまずいよね」

 考えが顔に出ていたのか、ジェネシスは椅子に座ったまま、俺を見上げ、困惑したように苦笑した。

「でも、別にセフィロスがティファちゃんに会うのを止める理由もないし」

「お、おい、アンタ、何言ってんだよ!」

「言葉通りだよ。『たまたま遊びに来た田舎町』で、チョコボくんの同僚として、話を聞いていた幼なじみにあいさつするっていうんなら、別に俺たちが口出しすることないだろう」

 シン……と場が静まり返る。

 つまり、この知能犯は、『セフィロスが彼女に会うのを止めることはしない』だが『もめごとを起こすのならその限りではない』と言っているのだ。

「フッフッフッ……」

「お、おい、セフィロス?」

 唐突に笑い出したセフィロスに目線を送る。

 形のよい唇を、皮肉っぽく歪め、低く喉元で笑みを堪えている。

「ああ、もちろん、貴様のいうとおりだ、ジェネシス。ここには魔晄炉があるからな。村の連中とトラブルを起こすわけにはいかん。……幼なじみの娘とは、『平和的会談』を楽しみにしているだけだ。クックックッ……」

「え、あ、あの、『平和的会談』って……」

 口を挟んだ俺を無視して、対照的な二人の英雄は言葉を交わし合った。

 そう……ピリピリとした緊張感を周囲に振りまきつつ。

「オレはあくまでも、クラウドの幼なじみに会って挨拶をしたいだけだ」

「うん、そうだよね。ザックスがひどく不安そうだったからさ」

「フッ…… こんな年下のガキに素行を心配されるなんざ、オレもヤキが回ったな」

「ううん、心配性の後輩が居てくれるってありがたいものだよ。俺も、おまえがそんな無茶なことはしないって、話をしたんだけどね。それでも気になるって」

「そうかそうか……それで同行を……? 存外に貴様も面倒見のよい男だったのだな、ジェネシス」

「そうでもないよ」

「いやいや、謙遜だな」

「あっはっはっ」

「クックックッ……」

 キモイ……!!

 キモイんですけど、このふたり!!

 なんなの、この剣呑とした空気は……ッ!!

 だ、だが、ジェネシスが上手いことセフィロスの行動を制限してくれているのは事実だ。

 少なくとも『トラブルは起こせない』という訓告だけでも、奴の脳裏に刻み込んでもらえたなら、俺的にも大分気持ちが楽になる。

 

「……ところで、セフィロス。どうして、ここへ?」

「あ?」

「いや、ここ神羅屋敷じゃないか。別に仕事で来たワケではないだろうに」

「別に。屋敷には大抵のモンは揃っているしな。……宿では行動が規制される」

 最後の一言、ちゃんと聴いたぞ〜ッ!!

 ぼそぼそと低い声になっていたけどな!!

 そりゃ、このクソデカイ銀髪男が、宿屋の窓にべったり張り付いて、道行く人を偵察していたら、筆舌に尽くしがたい異様さと違和感を醸し出すだろう。

 ここは田舎町だが、ソルジャーに憧れるクラウドが居たように、『神羅の英雄』の名前くらい知っている者も居るだろう。

 やっぱり、こいつは油断ならねェ……

 俺にとっては、ついぞ見ない、このセフィロスの慎重さが、胸の内の不安を掻きむしるのであった。