〜 障害物競走 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<18>
 ザックス・フェア
 

 

 

 

 

「……どうして? いいじゃないか、ティファちゃんに会えたんだし」

 深刻な口調の俺に、不思議そうに問い返すジェネシス。いやいや、今の会話で空気を読んで欲しい。

「そうじゃねーだろッ! ああ、アンタは途中からだったからな……でも、セフィロスとティファちゃんの恋愛バトルは見ただろう?」

 ぐったりと椅子に座ったセフィロスに聞こえぬよう、こそこそと壁際で会話する。

「うん、見た見た。やっぱり女の子は、殊恋愛問題については強気だよねェ」

「今回のケースは、ティファちゃんが『女』だってだけで有利だと思うしな」

「まぁ、確かに普通に考えればそうだよね。 で? なんでセフィロスは落ち込んでるんだ? 別に今さら怖いものなんてないだろ? 目下最大のライバルである幼なじみにも会ったことだし」

「シーッシーッ! 声大きいって、ジェネシス!」

 慌てて長身の肩を引き寄せるが、俺たちの会話はしっかりセフィロスに聞こえていたらしい。

 長い銀髪がゆらりと揺れると、野郎はフゥ〜ッと大きく吐息し、気を取り直すように立ち上がった。

「……そうだな。貴様のいうとおりだ。もう怖いものなどなにもない」

 何かを吹っ切れたようなセフィロスの物言い。

「そうだろう? いいじゃないか。もうハッキリ宣戦布告しちゃったんだから」

「ケンカふっかけてきやがったのはあっちだ」

「い、いやいや、セフィロス、相手は十四才の女の子……」

「そこでオレは熟考した」

 宥める言葉を遮り、セフィロスは胸を張った。

 『熟考』って……いや、二、三分黙り込んでただけだよね?

 

「あの娘に告げた言葉はすべて真実だ。よって、今後、よき頃合いを見定め、正式に告白し、交際を始めようと思う」

「え……?」

 あの……そっちにいっちゃうの?

 『あきらめる』とか、『なんとか誤魔化す方法を考える』ではなく、真っ正面から直球勝負に出るの?

 っていうか、『交際』ってアンタ……

「ちょっ……ちょっと待ったッ!!」

「なんだ、まだ決意表明中だ」

 鬱陶しそうに、俺を睨め付ける英雄。

 そう……早くもヤツは復活していた。完全に『神羅の英雄』ヅラに戻っていたのだ。なんという立ち直りの速さ……図太さ!!

「決意表明〜ッ! ヒューヒュー、パチパチパチ!」

 ジェネシスが、横合いから合いの手を入れる。表情が変わらないくせにお調子者な野郎だ。どうせただ面白がっているだけに違いないくせに。

 そいつを少し照れたような面持ちで、まぁまぁという手つきで押さえるセフィロス。ヤツはゴホンと咳払いをすると再び口を開いた。

「先ほどのオレ様の言葉に嘘偽りはない。後はいかに良い形でクラウドに気持ちを告げるかということだ」

「まぁ、アレ、それで『ゴメンナサイ!』かもしれないしね……」

 つぶやいた俺をあくまでも黙殺するセフィロス。

「あー、よってェ、さっさとこの休暇は切り上げ、クラウドのところ……もとい、ミッドガルに引き上げるものとする」

 えぇッ!?昨日の今日で?

 だって、俺たち、昨日の夜中にニブルヘイムに着いたんだぞ!!

「あー、まぁ、今日は列車の問題もあるからな。オレは明朝発つことにする」

「朝ァ? 早くない?せめて昼食ぐらいのんびりとってからにしようよ」

「別におまえらと一緒に帰る必要はないだろ。オレは一足先にクラウドのところへ帰ることにする」

 なんつーゲンキンな男だッ!! 散々みんなを引っかき回してひとりで旅立って!! 今度はミッドガルにとんぼ返りするという。

 だが……まぁ、さっきのティファちゃんとのやり取りを思い起こすと、気が急くのも無理ないのかもしれないけど。

 

「でもよ、セフィロス……」

「まぁ、待て。貴様の言いたいこともわかる」

 おずおずと口を開いた俺を、セフィロスの言葉が遮った。ヤツなりに俺の言いたいことは十分に想像着くというのだろう。

「確かに、オレはクラウドが好きだが、想いを伝えるには細心の注意を払えといいたいのだろう」

「え? いや、ってゆーか、あきらめ……」

 言いかけた言葉は、またもやあっさりと遮られた。

「案ずるな。当然きちんと考慮している。なんといってもあの子はまだまだ子供だからな。いきなりでは驚かせてしまうだろう。今少しオレに慣らせて、なんとなくそういう雰囲気に持って行ければと……そう考えている」

 どーゆー雰囲気だよッ!! そーじゃねぇだろッ!? もっと最初に考えなくちゃならないことがあるだろうがッ!? 

「ええと……その、アンタさ……この状況で、クラウドをあきらめるっつー選択肢はないわけ?」

 俺はため息混じりにそうつぶやいた。

 そのとき、ジェネシスの言葉をなんとなく思いだしながら。

『チョコボくんが、セフィロスの想いを迷惑だと言ったのか? 困惑しているからなんとかしてくれと、おまえに頼んだのか?』

 いや……そうじゃねーけど……でも…… 確かにクラウド本人の気持ちを確かめたわけじゃないんだよ。なんせ、確かめようにも、まだ話はそこまで行ってないし。

 だが、実際、「どうする!?」って段階まで行ってしまったとしたら、どちらにせよ、クラウドがつらい思いをするに決まっている。

 セフィロスの気持ちを受け入れようとも断ろうとも……どちらを選んでも、クラウドは衆目にさらされ、あれこれ陰口を叩かれるだろう。仲のいい同僚や同級生は味方になってくれるかもしれないが、それでも嫌な思いをするに違いないのだ。

 それくらいなら、今のうちにセフィロスにあきらめてもらえれば……少なくともクラウドがセフィロスを『神羅の英雄』と尊敬しているのは事実なんだし、そういうつながりだっていいじゃないか?

 ……俺の考えは間違っているのだろうか……?

 俺はすぅと呼吸を整えると口を開いた。傍らでジェネシスがこちらを見ているのを感じながら。