〜 障害物競走 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<19>
 ザックス・フェア
 

 

 

 

 

「アンタの気持ちは……そのよくわかんない部分もあるけど(俺は同性愛はわからん!)、でも冗談とかそーゆーんじゃなくて、本気なんだって理解できた」

 まずはそう言って、彼の言葉を真実と認めたことを告げた。

「当然だろうが。今まで何を聞いていたんだ、貴様は」

 不満そうなセフィロスのセリフを聞き流し、俺はふたたび口火を切る。今度はしっかりとセフィロスを見つめながら。

「こんなこと言うの……アンタには悪いと思うんだけどさ……」

「なんだ、コノヤロー」

「ちゃんと聞けよ! クラウドのことなんだからな! ……だってさ考えてもみろよ、セフィロス」

 そう前置きして続ける。

「アンタがクラウドに気持ちを伝えて……その答えがどっちだったとしても、必ずクラウドはキツイ思いをすることになる。いや、むしろアンタの思惑通り、クラウドが首を縦に振ったとしたら……あいつは周りから色々言われるだろう」

「…………」

「うわさ話程度ならまだいいさ。仲には妬みを抱くヤツだっているかもしれない」

「そいつは……」

「いいから黙って聞けよ。……アンタは英雄と呼ばれる男で、クラウドは入社したばかりの修習生だ。叩きやすいのはどっちだ? ちょっと考えればわかるだろ?」

 俺は手振りを交えてセフィロスに訴えた。ヤツはじっと耳を傾けている。

 かたわらのジェネシスが、おもむろに席を立ち、新しいお茶を沸かしにキッチンへ立った。

  

 
 
 

 

 

「……なるほどな」

 僅かな間隙の後、ぼそりとセフィロスがつぶやいた。

「たぶん、アンタならどういう結果になろうと、クラウドを傷つけないよう立ち回るだろう」

「当然だ」

「ああ、だが、人の悪意なんざ、食い止めようと思って止められるモンじゃないんだよ。擦れ違いざまに小声で罵倒されたり、好奇のまなざしで眺められるのを、アンタがいちいちくっついていって苦情を申し立てるわけにはいかないだろ?」

「…………」

「結局、クラウド自身がそれを跳ね返すくらい強くならなきゃいけない。今はまだあの子にそれを求めるのは酷だ」

「…………」

「……お茶入ったよ。飲みながら話したら?」

 ふたたび沈黙が落ちると、ジェネシスが上手い具合に、間を繋いでくれた。

 あたたかな湯気が立つ薫り豊かなそれは、緊迫して固まった空気を、ゆるやかに流してくれた。

 

「うん……ザックスのいうことはもっともだよね。あの子はあまり強いタイプには見えないから」

 紅茶を啜りながら、独り言のようにジェネシスがつぶやく。

「別にクラウドが弱いって言ってんじゃないぞ。ごく普通のそこらに居るガキだ。いや、むしろ田舎出身だけあって、同年代のヤツ以上に純粋ですれてない。だから他人の悪意なんかにゃ不慣れだと思う」

「うんうん、なるほどね。海千山千のソルジャーなんかとは違うってコトだ」

「まぁ、そうだな」

 言い方はともかく、少なくともこの場にいる誰よりも、幼く世情に疎く、傷つきやすいと思う。

「ふふふ、ザックス、本当にあの子のこと、心配してあげてるんだね。チョコボくんはいい友人を持てたなって、行きにも話したっけ?」

「ケッ、言ってろ」

「なるほど……貴様の懸念していることはよくわかった。いちいちもっともだと思う」

 意外にもセフィロスは素直に頷き、そう返してきた。

「そうだろう? それがわかってるんなら……」

「だが、ザックス。それでもオレは、あの子でなければダメなんだ。万難排してでも、クラウドをオレのものにしたい」

「あいつは『物』じゃねぇぞ!」

「……そういうつもりで言ったのではない。だが、やはりあの子にはオレを見てもらいたい。そしてずっと側に居て欲しいと願っている」

 彼の低いささやきが、あまりにも真剣で切実な響きを帯びていて……そういつもの強引でワガママなこの男の言葉とは思えぬほど重くて……

 俺はそれ以上、否定的な言葉を重ねることができなくなった。

 ジェネシスがそんな俺の心境に気付いたのか、「冷めちゃったね」とつぶやいて、新しいお茶に取り替えてくれた。

「以前にも言ったように、クラウドに無理強いしようなんざ考えていない。頃合いを見て、オレの気持ちを告げるつもりだ。もちろん、選ぶのはあの子だ」

「……そうか。まぁ、そこまで思ってるんなら俺の出る幕じゃないのかな」

「おまえが同室で、あの子のことを見てくれて有り難いと思っている」

「へいへい……なるべく回りにバレないようにしろよな」

 そう注意するのが精一杯であった。

「付き合うようになったら、そんなの時間の問題だろ」

 素っ気なく言うセフィロス。

 なんだよ、この野郎。上手くいくこと前提かよ!?

 あのティファちゃん相手に、どこまで自信過剰なんだか……

「そしてもし、おまえが懸念しているようなことが起これば、オレが全力で収める。場合によっては腕づくで黙らせるつもりだ」

「ちょっ……お、おい、物騒なこというなよ!」

「……つまりそういう気持ちであるということだ。それに……」

 セフィロスが目線を漂わせた。何かを思考するようにゆっくりと。

「それに……クラウドは頭の悪い子ではない。オレの手を取るということが、どういう意味になるのか、理解した上で結論を出すと思う。つまり周囲の人間の反応をも考慮に入れて」

「それは……」

「ああ。もちろん、予想以上につらい思いをさせるかもしれない。だが、あの子は芯が弱い子ではない。本当にオレと共に在ることを望んでくれるのなら……クラウドは全力で守る。必ずだ」

「……まぁ、そこまで言われちゃよ……」

 やれやれと俺は吐息した。

 『神羅の英雄』にそこまで真剣な眼差しで言われては、第三者に反論のしようがあろうはずもない。

 そう、あくまでも俺は当事者ではなく、クラウドのよき友人としての立場であるのだ。

 受け入れるにせよそうでないにせよ、決めるのはクラウド。その結果、あいつがきつい状況に追い込まれたなら、側に居て話相手になってやればいい。

 本来、俺に許された立ち位置はそのあたりのはずなのだ。