〜 障害物競走 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<22>
 ザックス・フェア
 

 

 

 

 

 

「えええッ!?」

 というのは俺。

「なにッ!?」

 と立ち上がったのは、セフィロスだ。

「クラウドの母親だと!?」

「うん、たぶん。ほら、あの子のハニーブロンドは母親ゆずりみたいだし、さっきお店の人と会話していたから」

「なんだと?」

「『ストライフさん』って呼ばれてた。確か、チョコボもそんな名前だったよね?」

 ジェネシスの言葉が終わらないうちに、セフィロスは外に飛び出そうとした。俺を押しのけ、間髪入れずに……まさしく椅子を蹴倒す勢いでだ。

 もちろん、クラウドの母親とおぼしき女性に向かって。

「お義母さ…………」

「やめれ〜〜〜ッ!!!」

 俺は寸でのところで、ヤツの腰にタックルをかました。それでも2、3メールは引きずられたと思う。

「てめェ!! 放せ! ザックス!!」

「アホか、アンタは!! 落ち着かねーかッ!!」

 振り解かれぬよう渾身の力でしがみつく。しっかし。

「どけっ! お義母さまに挨拶に……」

「何なんスか?『お義母さま』って。……アンタはクラウドの嫁か!?」

「嫁でも婿でもいずれ親族になるんだ。挨拶は早いほうが……」

「よさねーか!! アンタみたいなデカイ男が飛んでいったら腰ぬかすぞ!!」

「あっはっはっはっ」

 さも愉快そうに笑うジェネシス。そんな余裕があるなら、一緒に止めてくれればいいのに。

「大丈夫だ。きちんと挨拶できる! 何事も第一印象が重要だからな!」

「いや、アンタ、第一印象最悪だからね、コレ! ただでさえ、怖いから」

 なんつっても、この人、身長2メートル近いから。背もデカきゃ態度もデカイ。

 それに腰まで届く銀の長髪。実力ナンバーワンのソルジャー・クラス1stだが、存在感と悪目立ちも天下一品なのである。

「いいから退かんか! ああッ、ほら、行ってしまう!」

「ダメだっつーの! トラブルを起こすな〜ッ!!」

「まぁまぁ、ザックス。フツーに神羅の社員として挨拶するくらいなら、別にかまわないんじゃないのか?」

「そらみろ!」

「アンタ、『息子さんを下さい!』とか言いそうな勢いだろッ!!」

「ただの根回しだ!」

 どんな根回しだよ、この人は!!

「事前に言っておいたほうが、後々スムーズだろ」

「いや、それ、ほとんど脅迫だからね、アンタ!!」

「ああ、ほら、ここで大騒ぎするとお店に迷惑だよ。ふたりともここは俺に任せてよ」

 そういうと、俺とセフィロスに着いてこいというように促し、ジェネシスはクラウドの母親とおぼしき人のところへ足を運んだ。

 何考えてんだよ、コイツ……

 

   

 

 

 

 

「失敬。いきなり声をかけてすみませんが…… クラウドくんのお母様ですか?」

 ごくやわらかな口調で……それこそナチュラルそのものの物言いで、ジェネシスは小柄な夫人に声を掛けた。

 敢えて『ストライフさん』とかいう呼び方ではなく、「クラウドくんの」と呼びかけたのが、相手の女性の緊張を解いたようだった。

 彼女は不思議そうな面もちをしていたが、素直に「はい」と答えてくれた。

 なるほど……彼女は整った面立ちをしており、目元などクラウドと似ていた。

「はじめまして、私はジェネシスと言います。神羅の社員で、今年入社のクラウドくんとも親しくさせていただいています」

「まぁ……それは……」

 彼女はジェネシスの微笑みにポッと頬を赤らめると、嬉しそうに頷いた。そしてすぐに俺たちも同僚と察したのだろう。

「息子がお世話になっております」

 と丁寧に頭を下げられた。その女性的なやわらかな仕草に、心ならずも故郷に居るおふくろを思い出していた。

「あ、俺……い、いや、ボク、クラウドと同室のザックスっす」

 慌ててジェネシスに続いて挨拶した。本来なら、一番年下の俺からすぐに自己紹介すべきだったのだ。

 一応、『俺』よりも『ボク』のほうがマシかなと思ったのだが、ジェネシスに笑われた。チッ……『私』にしておきゃよかったんだ。カッコイイし。

「まぁ……ご迷惑掛けておりません?」

 と、彼女。

「い、いえ、全然。いいヤツと同室でラッキーだなと思ってます」

「それはありがとうございます。……あの子が入社してからずっと心配しておりましたので、ホッと致しました」

 お世辞ではないのだろう。クラウドの父親は、彼が幼い頃に亡くなったと聞いている。となれば、母一人子一人。一人息子の身を案じない親はいないだろう。

 となりのセフィロスもそう考えたのだろうか。きつい光を宿した双眸が、感慨深げに細められた。

 そして、おもむろに口を開いた。真打ちは最後にご挨拶……ってか? 

 

「……セフィロスです。貴女の息子さんと出逢えたことを神に感謝しています」

「は、はぁ……」

 ……いやいや、神にって……それ、初対面の挨拶としてどうよ、セフィロス?

 あのね、結婚式のスピーチとかじゃないんだからね? ニブルヘイムの中心で愛を叫ばれてもね……ほら、クラウドママも困惑してるじゃねーか。

「英雄・セフィロスさんですね。存じ上げております。……息子がずっと憧れていました。それこそ、新聞や雑誌でのご活躍を、まるで自分のことのように喜んで……」

 昔を懐かしむように、クラウドと同じブルーの瞳が細められた。

「貴男と一緒に仕事ができるだけでも、きっとあの子にとっては本当に嬉しいことなのでしょうね」

 クラウドによく似た色の白い……年齢的にもある程度にはなっているはずなのに、皺も見つからない整った面差し。微笑むと『愛らしい』とさえ言えるおもてに、わずかに影が差した。

 それは彼女の言葉のとおり、憧れの英雄と共に働く機会に恵まれた息子への誇りと……多分、それゆえの寂しさがあるのだと思う。

 慈しんで育てた一人息子が、母である自分の側に居ることよりも、神羅に行くことを選んだのだから。